
代表的な国民病である「肩こり」は、有訴者(病気やけが等で自覚症状がある人)数、女性1位、男性2位を誇り、多くの人々が抱えている症状の1つです。
では、なぜ肩が“こる”のでしょうか。
今回は、いわゆる「肩こり」のメカニズムをお伝えします。
メカニズムを知ることで、肩こり改善のために何をすべきか、肩こりって治るんだ!ということを理解できるかと思います。
そもそも「肩こり」はどのような状態のことをいうのでしょうか。
目次
1.「肩こり」とは2.“こり”が作られるまで
1.「肩こり」とは
✔ 原因となる病気や怪我などがなく、椎間板ヘルニアなどの神経症状も明らかではないにも関わらず、肩から首、肩甲骨、腕にかけての【こり感】【不快感】【重だるさ】【痛み】などを感じる状態

これが、いわゆる「肩こり」です。腕や手に痺れが出ていたり、転んだり、捻じったりして肩周りを痛めた状態のときは「肩こり」ではありません。
「肩こり」は、1日中続く人もいれば、仕事中だけ、午前中だけ、など部分的に感じる人もいます。
「肩こり」とまとめて呼ばれていますが、肩に限らず、首こり、背中の張り、頭痛、目のかすみ、耳鳴りなども関連して感じる場合が多いです。
肩こり対策の定番として、マッサージ、ストレッチ、筋膜リリース、温めるといった方法をよく耳にしますね。これらのターゲットとなっているのは、主に、筋肉(筋膜リリースは筋膜)になります。
では、理想的な筋肉ってどんな筋肉でしょうか?
ズバリ、“食べたら美味しそうな筋肉”です!
スーパーに並んでいるお肉や、外食で食べるお肉を想像してみてください。
適度な柔らかさ・厚みがあるお肉って美味しいですよね?つまり、上質な筋肉といえます。
一方で、すじ張っていたり、薄い、硬い、柔らかすぎて脂っぽい、こんなお肉は美味しいとは言えません。つまり、質の悪い筋肉です。
悪い姿勢、変な癖、偏った動き方などにより、筋肉は、本来の長さ(正常)よりも伸ばされて長くなってしまったり(伸張)、逆に短くなりすぎてしまったりします(短縮)。
長くなる=伸びきった状態にある筋肉は、力を発揮しづらくなり筋力が落ちていきます。逆に短くなりすぎた筋肉は、柔軟性(柔らかさ)がなくなり、こりが出現します!
つまり、筋肉の長さのバランスが悪くなり、短くなってしまった結果、常に収縮(縮める)せざるを得なくなった筋肉にこりが生じるのです。
まだ短くなっていなくとも、悪い姿勢や偏った動きで、いつも頑張り続けなくてはいけなくなった筋肉も「こり」の原因になります。
このように、一部の筋肉へ、過剰な持続的収縮(いつも頑張らざるを得ない/短くなっている)や疲労、長時間の悪い姿勢や繰り返される偏った癖などによって、筋肉の血流が悪くなります。筋肉は血流が悪くなると、脱水状態に陥ってしまうため、硬くなり、痛みを引き起こす要因になります。
2.“こり”が作られるまで
筋肉の持続的緊張・収縮(筋肉が短くなる/いつも頑張り続ける/力が抜けない)
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血流が悪くなり、筋肉が酸素不足になる
✔ 血液は身体のすみずみに酸素を運搬している
✔ 筋肉が収縮し続けることで血管が圧迫されて血流が悪くなる
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乳酸などの老廃物が蓄積し、滞る
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筋肉のエネルギー供給源(筋肉の働きに必要なエネルギー原料)が不足
✔ 血流不足によって血流内の酸素が少なくなるため
✔ エネルギー供給源:アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、クレアチンリン酸など
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これらの状態を修復しようとして、様々な痛覚過敏物質が放出される
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痛覚過敏物質が神経をも刺激して痛みが増加
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交感神経が活発になり、さらに虚血状態に(酸素不足)
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筋肉のリラックスに必要なATPが不足
✔ 筋肉に力を入れるにも、緩めるにもATPが必要
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筋肉が収縮しっぱなし(緩められない/伸びれない)になる
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“こり”の完成

長時間・長期間にわたって同じ筋肉に負担が加わることで、このような悪循環が生じます。この悪循環から抜け出すことが出来れば、筋肉は正常な状態に戻るわけです。
このように完成した“こり”は、その筋肉をおおっている筋膜(全身を覆っている膜/ソーセージの薄皮みたいな)の「よじれ」に繋がってしまいます。
やっかいなことに、筋膜がよじれると、よじれたまま解れなくなってしまうのです。この筋膜のよじれをほどこう!というのが巷で話題になっている「筋膜リリース」ですね。
こうして、筋肉と筋膜の両方が「こり」の原因として存在しているわけです。
筋肉や血流の話をしましたが、衰え(歳を重ねれば人間は衰えます)も「こり」の原因になるのでしょうか?
答えはYES。
残念ながら、いわゆる「衰え」も「こり」の原因になります。
運動や筋トレをすると筋肉が太くなったり、強くなったりすることはよく知られている事実だと思います。一方、悪い姿勢や、偏った癖、偏った動きを長時間、長期間していると、いつも使う筋肉は限られてくるので、あまり使われない筋肉から衰えてきます。
一般的に筋肉は30代から衰えはじめるので、悪い姿勢や癖は、衰えを加速させると言ってもいいでしょう。
この衰えは、柔軟性の低下、循環系(血管系や内臓器)の衰え、運動量の低下などが関連して生じます。肩・首・肩甲骨周りの筋肉も確実に衰え、肩こりに影響します。もともと筋肉が弱い人はますます肩がこります。肩こりが女性に多いのも納得です。
なぜ筋力が必要かというと、頭と両腕がとっても重たいからです。頭は約5kg、両腕は約8kgあり、その重たい物体を常に支えていなければならないわけです。
10kgのお米を持ち続けることを想像してみてください。少々ぞっとしますが、そのくらい、肩・首・肩甲骨には常に負担がかかっているのが事実です。

弱くなった筋肉では、首や肩がいつも緊張せざるを得なくなってしまうため、「肩こり」になりやすくなります。またなで肩の人も肩がこりやすいと言えます。筋肉痛になるほど熱心に筋トレをしたり、ムキムキになる必要は全くありませんが、ある程度の筋力(少なくとも、腕や頭を楽々支えられる程度)をつける、または維持する心がけが必要ですね。
私たち人間は、便利すぎる現代社会にあやかりすぎて、確実に運動不足になっています。運動をしないと、当然ながら筋肉の量は減少し、筋肉は痩せて細くなります(そして脂肪は増える)。
逆に運動をすれば、筋繊維は太くなり、筋肉量の減少がとまるか、あるいは一時的にでも筋肉量を増やすことも出来ます。よって老若男女問わず運動は必要であり、偏った動きや癖を見直したり、正しい姿勢を心がけることは、「肩こり」の改善にはとても重要であると言えます。
この記事を書いた人:
ONISHI
理学療法士。コンチネンスリーダー。リラクゼーションサロンsaya andaオーナー。10年間病院でのリハビリテーションに携わったのち、現在は介護・福祉従事者の教育に従事しながら、筑波大学大学院にてヘルスプロモーションの勉強・研究に取り組み、健康活動を推進中。
